† 遺言事項~遺言書の効力の範囲は?

¶ 遺言にはどのような法的拘束力があるのか

 遺言制度は亡くなった人の最終的な意思を示すものですから、その内容は最大限尊重されるべきです。しかし、だからといって、なんでも遺言で決めることができるわけではありません。

 遺言は遺言者の死後に明かされる一方的な意思表示ですから、ときには行き過ぎたり、内容不明の事柄がかいてあっても、故人に問いただすことはできません。そこで、あらかじめ法的拘束力をもつ遺言事項を民法で定めています。

 遺言による意思表示に法的な拘束力が与えられる事項を、遺言事項といいます。遺言事項は身分に関するものと、財産に関するものに限られます。

 ですから、例えば、遺言で遺族の婚姻や離婚、養子縁組、遺産の売買に関することを書き残しても、その遺言は法的拘束力をもちません。また、夫婦連名で遺言するなど、複数の人が共同で同一の遺言事項で遺言することもできません。 

 

¶ 身分に関する遺言事項とは

①嫡出でない子の認知

 身分に関して遺言できるものには、まず非嫡出子の認知にあります。これには、まだ生まれていない胎児も含まれます。

 なお、認知された子の相続順位は嫡出子と同順位ですが、法定相続分は嫡出子の2分の1となります。

 

②未成年後見人、後見監督人の指定

 また、両親のいない未成年者がいる場合、その財産を管理する後見人を指定することができます。さらに、この後見人がその役割をはたしているかどうかを監督する後見監督人も決めておくことができます。

 

¶ 財産に関する遺言事項とは。

①遺贈

 法定相続人であるなしにかかわらず、遺産を自分の好きな人に贈与することができます。遺産に対する比率で指定すれば包括遺贈、特定の財産を指定すれば特定遺贈です。

 

②相続分の指定とその委託

 法定相続分とは異なる割合の相続分を指定したり、遺産をこのように分割して、この財産はこの人、この財産はあの人というように、遺産分割の方法を具体的に指定することもできます。(相続分の指定と遺産分割方法の指定自体を、第三者に委託することもできます)

 

③遺産分割の禁止

 さらに、5年を超えない期間に限って、遺産分割を禁止することもできます。

 

④遺留分減殺方法の指定

 また、もしも遺留分減殺請求があったときは、子の財産から減殺するようにと、減殺の順序と割合を指定することもできます。

 

⑤相続人相互間の担保責任の指定

 さらに、遺産分割で各相続人が取得した財産に不足や欠点があった場合、各相続人はお互いに補い合う責任(担保責任)がありますが、遺言によりその責任を免除・軽減したり、逆に重くしたりすることもできます。

 

⑥そのほか遺言で行えること

 このほか、公益に役立てるための財団法人の設立=寄付行為や、財産を管理運用させるための信託の設定、相続人の廃除とその取り消し、特別受益者の持ち戻しの免除、遺言執行者の指定および師弟の委託、仏壇や墓を遺族のひとりにゆだねる祭祀継承者の指定なども、遺言で指定できまる。

 

¶ 遺留分を侵害する遺言はどうなる。

 遺留分は、相続人が無条件で相続できる最低限の割合として、民法で保障されています。したがって、遺留分を侵害する内容の遺言をされ相続人は、遺留分減殺請求をする権利があります。ただし、その相続人が遺留分の侵害を容認したときには、その遺言はそのままの内容で有効となります。

 

¶ 遺言できない事柄もある。

以下の3つの事柄に関しては、法的な拘束力はありません。

 

①結婚や離婚に関すること

 結婚や離婚は、当事者双方の合意なくしてはあり得ません。一方的に書き残しても法的には無効です。

 

②養子縁組に関すること

 養子縁組、養子縁組の解消は、生存中でないとできません。

 

③遺体解剖や臓器移植に関すること

 遺体解剖や臓器移植は、遺族の同意なしにはできせません。遺族が故人の遺思を尊重して同意すれば、実行されることになります。