† 遺留分~相続分が不当に少ないとき

¶ 第2順位までの相続人には、民法で最低限の取り分が保証されている。

 被相続人は遺言を残すことで遺産を思いのままに処分することができます。しかし、だからといってすべての遺産を他人に遺贈して、配偶者や子供に何も残さないような相続はあまりにも過酷です。

 たとえば、妻子にはなにも遺さず、「全財産を愛人に譲る」を遺言して亡くなった人がいるとします。もしもこれがそのまま認められてしまったら、残された家族には相続の権利は何もないことになってしまいます。こうした事態を防ぎ、遺族の権利を守るために、民法では法定相続人のうち、配偶者と直系卑属(子供や孫)、直系尊属(父母や祖父母)に対して、

最低限の取り分を規程し保証しています。これを、遺留分といい、遺留分を主張できる権利を、遺留分減殺請求権jといいます。

 ただし、遺留分は必ずもらわなければならないという性格のものではありません。その相続人に不満がなければ、あるいは不満があっても被相続人の遺思を尊重したいと思うならば、遺留分を主張する必要はありません。これを、遺留分放棄といいます。また、相続欠格および相続廃除にあたる人には、遺留分の請求権はありません。

 

¶ 遺留分は、法定相続の2分の1または3分の1

 遺留分で確保されている相続財産の割合は、相続できるはずだった本来の法定相続分の2分の1(父母などの直系尊属のみが相続人となる場合は3分の1)です。ただし、相続人が被相続人の兄弟姉妹だけだった場合には、遺留分はありません。ですから、遺言書に配偶者や子供、父母がいない場合には、財産をだれにどう遺そうと自由なのです。

 この遺留分の計算にあたっては、遺産のほかに相続開始前1年以内の贈与や、当事者双方が遺留分を侵害することを知りながら行った贈与、同じく遺留分を侵害することを知りながら正当な値段以上を支払った取り引きも、計算に含まれます。

 

¶ 遺留分は1年を過ぎると、請求の権利が失われるので注意。

 遺留分減殺請求は、特別な手続きをする必要はありません。家庭裁判所に申し立てる必要などもなく、贈与を受けた人または、受遺者に対して、意思表示をするだけでよいことになっています。贈与を受けた人または受遺者がこの請求に応じない場合には、家庭裁判所に調停または審判の申立てを行います。

 なお、この権利は、相続開始および返還すべき贈与や遺贈があったことを知った時から1年以内に行使しない場合には消滅してしまうので、注意が必要です。

 また、知らなかった場合でも、相続開始後10年を経過すると、この権利は自動的に消滅します。

 

¶ 生前に遺留分の放棄をさせることも可能

 被相続人が生前に、自分が死んだら相続人となる予定の人(推定相続人)に対して、その遺留分を放棄させることもできます。

 たとえば、農家や商家などでは、家業を継ぐ人に特別多く相続させないと、家業が立ちゆかないということがあります。こんなときは、被相続人が亡くなる前に、相続人となる予定の他の人に、遺留分を放棄するように頼むことになります。

 ただし、これは自分たちだけで遺留分を放棄すると約束しただけでは有効ではありません。

家庭裁判所から遺留分放棄の許可を得ておく必要があります。