† 特別受益~生前に贈られた財産があるとき

¶ 特別受益は、相続財産に組み入れる。

 遺言にせよ、法定相続にせよ、それぞれの相続人の相続分が決まっても、遺産をめぐってもめることがあります。

 生前に被相続人から受けた贈与や、遺言で受けた贈与=財産上の利益を特別受益、特別受益を得た人を特別受益者といいます。

 遺産の相続分を計算するにあたっては、特別受益があれば相続財産に組み入れます。

この特別受益を加えたものを、みなし相続財産といいます。そして、法定相続による遺産分割や遺言による分割は、このみなし相続財産をもとにして行います。

 

例えば・・下記のようになります。

 

  • 遺産額が、1億円
  • 相続人は、長男・次男の2名
  • 長男の特別受益が、2000万円の場合では?

 

 1億+2000万円(特別受益)=1億2000万円(総資産)

 

 ①長男の相続分

 (1億円+2000万円)×2分の1-2000万円=4000万円

 

 ②次男の相続分

 (1億円+2000万円)×2分の1=6000万円

 

特別受益の計算.xls
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¶ 特別受益は現在の価値で評価する。

 貨幣価値は時代によって変わるので、特別受益の値打ちを当時の価格で評価するのは妥当ではありません。そこで、不公平が生じないように、特別受益は相続開始時点(死亡時)での価格で評価し直します。これは、物や学費などだけでなく、現金も同様です。

 なお、相続分より贈与の分が多い場合でも、原則としてもらいすぎた分をほかの相続人に返す必要はありません。不公平のように思えますがこれは、故人の生前の意思を尊重したものなのです。

 ただし、特別受益がほかの相続人の遺留分を侵害する場合は、遺留分減殺請求により侵害分を請求することができます。遺留分減殺請求をされた特別受益者は、その金額を支払わなければなりません。

 

¶ 特別受益の対象となる財産は?

 特別受益の対象となるのは、物であれ、権利であれ、生前または没後の被相続人から贈与を受けた財産的利益です。何十年前に得た利益でも特別受益の対象となります。

 

①生計の資本として受けた贈与

例えば、亡くなった父の存命中に、子供がマンションや住宅を買ってもらった場合などが、典型的な特別受益の場合の例です。また、開業資金を出してもらった場合や、長男は高校までなのに、次男や三男は大学に行かせてもらった場合などにも、特別受益となります。ただし、小遣いや遊興費、時計など、その場限りのプレゼント、あるいは、入院治療費や結婚祝いといった交際的なものなどは、金額が少額で相続人の間であまり不公平とならない場合は、特別受益に該当しません。

 

②婚姻・養子縁組のために受けた贈与

例えば、子供の中でひとりだけ結婚式の費用を出してもらった場合も、特別受益となります。ただし、嫁入り道具を買ってもらったり、結納金や新婚旅行の費用を出してもらったりした場合、あるいは、結婚費用として現金をもらい、それを本人の自由裁量で支出した場合であって、主として故人の交際範囲や体面から支出してくれた挙式費用や披露宴などの費用は、特別受益とならない場合もあります。

 

③遺言で得た財産(遺贈)

遺言で贈与された財産は、自分の相続分にプラスされると思っている人もいるかもしれませんが、これも特別受益に含まれます。

 

 

 

† 寄与分

¶ 寄与者には、貢献した遺産がプラスされる。

 農業や商店、事業主などが亡くなった場合、後継者である長男が、長年父親を助けて働いてきたというケースがあります。

 このように、相続人のなかには、相続財産の増加や維持にとくに貢献した人や、老後の親の生活費や療養費を負担したり、看病や介護をした人がいる場合があります。このうような相続人が、ほかの貢献していない相続人と同じ分した相続できないというのは、公平とはいえないでしょう。

 そこで、相続人の間の実質的公平をはかる制度として、寄与分の制度が取り入られているのです。そして、相続財産の増加や維持にとくに貢献した相続人のことを寄与者といいます。

 特別寄与者は法定相続分とは別枠で、貢献した分の遺産を受け取ることが認められています。

 

¶ 寄与分は相続人の話し合いで決める。

 寄与者と認められるには、事業に関する労務の提供や財産上の給付、あるいは療養看護やその他の方法により、亡くなった人の財産の維持・増加に特別の寄与をした相続人であることが必要である。

 寄与分の限度額は原則としてありません。寄与分をどのくらいにするかは、相続人の間の協議、話し合いで決めます。特別寄与者は、決まった配分の財産に、寄与分を合わせた財産をもらいます。

 なお、遺族の円満な話し合いによる協議分割の場合は、話し合いさえつけば、寄与分を考慮してもしなくても、どちらでも構いません。

 

¶ 協議がまとまらなければ調停・審判で。

 もしも協議でまとまらないときは、家庭裁判所に申し立てて決めてもらうこともできます。

家庭裁判所では、寄与の時期の方法、程度、財産の額、そのほか一切の事情を考慮して寄与分を決めます。

 家庭裁判所の実際の例では、最高でも相続財産の3割程度で、一般には1割くらいでまとまっている例が多くみられます。

 なお、寄与分は、相続人間の不公平を修正する制度ですから、単独で申し立てることはできず、遺産分割の調停・審判の申し立てに付随して申し立てる必要があります。